シュピーゲル

んなわけで感想……の前に。

809 :イラストに騙された名無しさん:2007/11/05(月) 22:35:48 id:xmWa4Fy2
読み終わった。スゲェな。面白い。
 
あと、それぞれの二巻まではトラクルおじさんが普通のおっさんだったのに
三巻から何故かギャンブルフィッシュのアヴィが脳内画像に採用されてる。
ハゲ+緑目ってのがきてるのかなぁ。
折角のシリアスシーンもアヴィの所為で吹いてしまう。
 
と言う訳でスレの皆も同じ目にあってくれ。

 ―――

 冲方スレのコイツのせいでトラクルおぢさんがアヴィにしか見えなくなった件。
 個人的には、Dグレの『千年伯爵』(だっけ?)を大久保篤志な画風にした妖しすぎる藻黒腹蔵みたいなトラクルおぢさんを想像してたのに……
 では改めて。

 スプライトシュピーゲル ☆☆☆☆☆
 オイレンシュピーゲル ☆☆☆☆★

 個人的に、今までは、

 一巻
 オイレン>スプライト
 二巻
 オイレン>スプライト

 だったのですが、今回はスプライトに軍配。
 ―――と、いうのは個人の趣味で、北神が黒くて熱いのが好きでいて、スプライトは、いい意味でラノベっぽいキャラクター設定(キャラクターの口調口癖が萌えキャラそのもの)なところが魅力なのですが、どうも冲方らしくないというか、そっちよりもオイレンの熱い闘争劇に目が行ってしまった。個人的に乙の「ドキドキするっしょー!」は未だに馴染みませんし。

 で、三巻。
 オイレンは、トッコーレベル3転送における、政府の対応と陽炎の部屋から見つかった人形から「初めて人を殺した時のことを覚えているか」という疑問から、当時施行された「人格改変プログラム」をキーに当時゛何が起こったのか"に切迫。
 スプライトは、『24』形式に「4JO」を中心にテロリストと裏切り者を相手取る群像劇。

 名言度でいえば、やはりオイレンのが高いのですが、今巻のスプライトは、何と言っても中盤から終盤にかけての風呂敷の広げ具合と畳み具合。序盤からあらゆる伏線を張っていき、中盤から悪魔的にタイムリミットを敷き、展開を急かせ謎を深め物語を転がし最後に爆発させる。
 一時間にキッチリ一つは「事件」を敷き、それに翻弄されながらも一歩も引かず、愚直であろうと闇雲であろうと前進していく。
 ……言葉では言い表せないほどの熱さと絶望がここにあり、それはさながらマルドゥック・ヴェロシティのような地獄度と痛快さ。まごうことなく傑作。
 更に言うなら、これだけ大きなことをやってのけたのに、スプライトのラストの展開を持って、
「ますます面白くなってきた……!!」
 と思わせる期待のさせ方がニクい。

 また、鳳の熱さは尋常じゃなく、今回は水無月も最高にカッコイイ。こういうタイプのツンデレは大好きだわー。土御門元春みたいなタイプ、といえば何人かは分かるハズ。んでもって雛がめちゃくちゃ可愛い。個人的に、雛は萌えキャラの典型的な部分を一身に背負ってるなー、と思いつつも今までは「三人の中の一人」(スプライト側は『冬真』という、一般人側の語り部みたいな存在があるので、そっちに感情移入しがちになる、という側面もあるかも)という観点でみていたのですが、その中で突出した存在へとシフトしました。
 だってあんな心の開き方みせられちゃ……ねぇ?

 オイレンについて。
 二巻までは、作品のリンクというのは<アンタレス事件>のラスト以外は、フランツ副長がMSSに出張してくるくらいだったのですが、今巻からはオイレン側の隊員が積極的にスプライト側に関わってきた印象。また、ニナさんもMPBに出張。
 やはり今巻も名言が登場。
「……処女」
 嘘です。
『この世は不平等だ。神様に愛されるのを待っていたら、運命や都市の仕組みや同じ境遇の人間同士が醸し出す殺伐とした気分といった、ろくでもないものに殺されるしかない。
 悲観することからも悔しがることからも脱出しなければ、生きているだけ運が良いと思わなければ、「幸せになりたい」と思うたび苦しくなる心に負けてしまう。
 生きろ――生きろ――生きろ。
 いつしか、お定まりの言葉を並べ立てる自分の口を無視して、その眼差しで、一人一人に訴えかけていた。運命に、都市に、隣人に、自分に、愛されなかった事実に――殺されるな――生きろ――諦めるな。何かを見つけてしがみついて生き抜け。
 希望があるから生きるんじゃない。
 生きていることが最後の希望なんだ。』

 ちなみに二巻の名言は、

『なめんじゃねぇっ! あたしはっ、これしか知らねーんだ! 生まれてから一度もっ、七歳で機械にされたときから、これ以外っ、なんっにも威張れるもんがねーんだ! あんたが戦争の鬼だろうが何だろうが、生まれた時から自由に両手を開けたやつに、このあたしがっ、これで負けるわけねーだろっ!』

 もう二巻のこのセリフは読むだけでジンとくるから困る。
 スプライトが集団群像を描くのに対し、オイレンは隊員個人を尊重して描かれることが中心なので、必然というか、機械化された経緯が『自然災害に巻き込まれた』意味合いの深いものではなく、『子供の世界の中心』である家族をテーマにした部分が大きい。
 そのくせ彼女達はどこか完結していて、それをおくびにも出さないようにしているのが彼女達の強さだとも思うのですが、それがあってかなくてか、オイレンの闘争のテーマは、トラウマでもあると個人的には感じているのですよ。

 で、今回三巻を両方読んだ上で、実はその考えが若干揺らいでいて。
 オイレンの特甲児童達が『歪んだ』経緯から機械化の道を辿ったことに対し、スプライト側は『突発的な』経緯で機械化へと進んでいってるわけで。
 オイレンが家族や個人の事を引き合いに出すのに対し、スプライトでは群像を中心に描かれているので、一応、スプライト側に家族の描写は存在するのですが、それがどうも希薄ぎみに描写されてるな……という印象を受けていたのですが、そのくせオイレン・スプライト両隊員において、貪欲に『愛情』を欲していたのは、実はスプライトなんじゃないか、という結論に今更ながら至るのこと。

 オイレン組の親御さんは、どこか壊れてる。まともな愛情(まとも『に』愛情、ではない)を受けられなかった彼女達は、それゆえ親を大事に思う反面、クソ野郎どもと思う気持ちもあり、
 対しスプライト側の親御さんは、割かし普通の愛情をかけて彼女達を育てていき、不慮の事故だったりで強制的に親を失っていった。

 冷静に考えたら、年端も行かない子供たちが、突然親を奪われたとい観点から、『愛情の執着』はスプライト側の方が大きいのですが、オイレンはその家族や個人の描写を重きにおき、スプライトは組織と群像の描写に重きをおいている感じなので、その正負のベクトルはともかく、意志の強さはオイレンの方が強く感じがちなのですよ。
 また、しかしながらオイレン側もスプライト側も『三人一組』であるチームを家族以上に信頼し、それだけで満ち足りている状態であるので、そこにあるリアルに立ち向かっていけるのかと推測できます。
 特にオイレンでは、涼月と陽炎を精神的な部分で癒した夕霧の存在が大きく、スプライトでは妹としての存在である雛の保護欲的な存在と鳳のお姉さん的存在が大きいのに加え、本編で参加した『無力な一般人』である冬真の存在が彼女達を癒したりする立場にあることで成り立ってるよなぁ、とか。
 
 話を戻してオイレン。
 今回のスプライトとのリンクで、スプライト三巻に登場しなかった、未だ謎のヴェールに包まれている皇と蛍の情報、特甲児童達の行く末、プリンチップ社とトラクルおぢさん、特甲猟兵の存在。
 次巻がスプライト・オイレンともに書き下ろし長編だそうなんで、現在ドラマガで連載されてる短編と照らし合わせて、両シリーズ共に三冊ずつくらいで終わりそうな予感。
 超楽しみ超お勧め。今年刊行の作品では一番クラスにオススメです。同率にFate/zeroがありますが、アレは笛プレイ済みの人推奨ですし。