フライハイ・アンド・ファイト――沸騰せんばかりの熱さで駆け抜ける妖精たち

 ネタバレ注意

 ◇スプライトシュピーゲル4 テンペスト ★★★★★★★★★★★★

 数が合わないのは気にしたら負け。それくらい圧巻。
 マルドゥック・スクランブルのカジノ+マルドゥック・ヴェロシティを連想させる、とんでもない傑作。個人的にものすんごいご馳走でした。
 ドラマガに連載された中篇について。
 ……とうま、という名前はアレですか。そういう呪いが掛かってるんですか、その血族まで?
 俺、とうまって名前で生まれてたら人生変わったかな……?
 また、もう乙のことをアリスとしか呼べなくなるんじゃね? 現象が発生。さながら、エレンをアインと呼べなくなるファントムファンと同じ現象かと思われます!

 テンペスト
 MSSの特甲児童が保護する証人ら六人と、ミリオポリス最強と言っても過言ではない、ヘルガ長官に対してのみ能力値ゼロだが平常時は攻撃力防御力精神力最強のニナさん、9mm拳銃をチラつかせて妹分を恐喝する絨毯爆撃娘鳳、その場のノリで楽して生きたいオレ坊主アリスに、自分の殻に閉じこもってぶんぶん黄色いのとかよく電波吐く雛の面々がプレイするTRPG、世界統一ゲーム。

 歴史の必然か、今後世界で起きるかもしれない、あるいは起きている事態を引き起こし、それに翻弄されるMSS。
 相手は海千山千の苦難を乗り越えほとんど不動といった地位や名誉を築いた豪傑ばかり。冷静に沈着に、まるでMSSに諭すように出来ることとしないことをロールする証人達が実にいい。
 善意で行った政策に必要ないほど発展している超大国の自国こそ潤ったものの、一方で本来支援したかった貧困国の多くを破綻させ、偽善どころか世界の悪として批判を浴び、それに意気消沈する鳳。
 出来ることが殆どないまま、自国を養う最善を行い結果としてこのゲームを最も荒れさせることとなった雛。
 あのニナさんでさえ、普段のペースを崩されまくり渋面作ってゲームに熱中していく様は全国のニナさんファン的には必読。
 アリスは……結構自分勝手にプレイしてた感じはしますが、初手に行ったことこそ、このゲームを荒れる気配をムンムンに、その上コレがあったからこそという部分もあって。一巻におけるアリスだったら間違いなくゲームオーバーになっていただろうと思うとその成長の一端が見られたのは嬉しい限り。
 絶望に絶望をべき乗して地獄の艱難を味わった上、最悪の平和を体現しつつも水管理法の撤廃に持ち込んだ時など、自分もMSSの面々と一緒に感動してしまった。
 本当に、上手い。ニクい。冲方はこういう心理が絡むゲーム描かせたら超一流だと改めて再認。ほんと、なんでゲームやアニメのシナリオになると微妙な評価を得るのかしら、と思ったり。このあたりは時間などの制約が冲方の才能を十二分に発揮できる環境じゃないのかな、とか。

 TRPG後もヴェロシティを思わせる、感情移入させまくった愛すべきキャラクターをいとも簡単に殺していくあたりほんと鬼だわ。また、ハロルドと鳳の操作ペアはフライトとボイルドの師弟関係なんかを思い出してニヤニヤ。こっちのハロルドはフライトのヘタレイメージと違ってガチすぎ、また鳳が適度に青臭いので新鮮味があり実に楽しく読める。ちなみに自分のハロルドのビジュアルイメージはゼロ少佐だったり。なんでだ。
 ラストの猋組との隊員交換もあまりの沸騰っぷりに思わず読了後に世界統一ゲームとこのシーンの読み返しをしてしまったり。鳳と涼月の掛け合いも実にいい。
 アリスのレベル3開放に至る暴走のプロセスはラムさんも言ってましたが、非常に秀逸すぎる。奈須は「こんなことがあったならこういう狂い方もあるかもしれない」と、超現実的に人を陥れていく狂わせ方をさせるのですが、冲方もある意味それに近いタイプだよなあ、とか思ったり。雛を攻撃しそうになって、
「オレ……ナマクラだ……」
 のセリフも揺さぶられるものがある。正直、冲方は乙アリスを日向とばっかり絡ませててモリサンのこと忘れたんじゃね? と心配してましたが、ワザモノとナマクラがここにきてまだ活かされてることに安心とともにぐっときた。
 あともう日向は作中ですごい勢いで死亡フラグた立ってる気がする。あと、特甲児童だと雛。悲しいくらいあっさり死にそうで怖い。そういうのを平気で仕掛けてくるから冲方はやめられん。
 ともあれ、評価は文句なしで今年一番です。
 ところで、冲方の今年の予定欄に「シュピーゲルは今年で第一部完、第二部ヨーイドン」と書かれてあったわけですが、あれ? あとがきを見ると「あと五巻・六巻で完結」とか書かれてますよ? コレはあれですね? 五巻・六巻が上中下巻構成ですか? それとも一冊につき終わクロ七巻並の厚さで? 六巻で(第一部)完結? そう取りますよ? ……取らせてくださいってばあ。
 もっと続けて、テロ起こしまくってミリオポリス壊滅してもいいから続けないかな……
 はあ、しかしオイレンと合わせてあと五冊しか読めないと考えるか、まだ五冊も読めると考えるべきか……
 ともあれ、合わせて12冊だと考えればキリがいいなら本当に楽しめた部類なんだろうなあ、と思いつつも、冲方が定期的に読める機会が少なくなる未来を心底残念に思ったり。

スプライトシュピーゲルIV  テンペスト (富士見ファンタジア文庫 136-11)スプライトシュピーゲルIV テンペスト (富士見ファンタジア文庫 136-11)
(2008/04/19)
冲方

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